「最初に契約した時も、やめる時も、同じ会社だった」
そう話すのは、10年以上にわたって焼肉店を経営し、今回の店舗を最後に引退を決めた中橋さん。
テーブルごとにスタッフが隣について肉を焼くというスタイルと経営する中橋さんご夫妻の人柄が、長年地域に愛されてきました。
しかし、2年半のブランクを経て再出店したものの、1年あまりの経営を経て閉店・引退という決断に至ります。
本記事では、中橋さんの長年の経営経験から見えてきた「飲食店経営の本質」についてお話を伺いました。
〈取材者=橋本 帆栞(店舗高値買取センター)〉
同じ会社との縁が、出店から撤退まで続いた

本日はお時間をいただきありがとうございます。
まず、今回の閉店・撤退のご決断にあたって、弊社をお選びいただいた経緯を教えていただけますか。

最初に物件を取得した時も同じ、御社にお願いしていたんです。だから話がうまく通じるというか、安心感がありました。

すでに何社かからお声がけをいただいて、正直ほかのところで決まりかけていたんですが、最後にご説明いただいて、説得力があったのでお願いすることにしました。
特別に何かをしてもらったとか、そういうことではなく、やり取りの中で見えた人柄ですね。担当の人も、電話をしたらすぐに折り返してくれる、それがものすごく早い。それだけでもう「信頼できる」と感じました。

出店時も、やめる時も、弊社をご利用されたということですね。

そうなんです。縁があったということでしょうかね。

弊社としても、出店・撤退のどちらも支援しているというのは強みなので、そう言っていただけると嬉しいです。
改めてこの度は、弊社を選んでいただき、ありがとうございました。
出店から撤退まで、同じ会社とのつながりが続いたという中橋さん。
条件や価格以上に、コミュニケーションの質や人柄が信頼の決め手となったと言います。
撤退という場面においても、「誰に任せるか」という「人選び」の重要性が伝わるエピソードです。
10年以上。地域で愛された店が、再び幕を開けた

中橋さんは長年飲食店をされていたとのことでしたが、今回の店舗に至るまでの経緯を教えていただけますか。

もともとこの辺りで10何年かやっていたお店があって、そこは結構お客さんに愛してもらえていたんです。
それから2年半ほど空いた時期があったんですが、また小さい箱でやってみようかということで、今回の店舗を出しました。 それで、みんな来てくれて。この店も道から看板が見えて、「あ、あのお店だ」「復活したのかな」って立ち寄ってくれるお客さんもたくさんいたんですよ。

時間が経ってもお客さんにそれだけ覚えていてもらえるというのは、本当に素晴らしいことですね。

ありがたいですよね。でも逆に、そのお客さんたちが来てくれた時に、ホールのサービスがぐちゃぐちゃになってしまっていた。 私が、「何なんだこの接客は!」って思うくらい。
お客さんたちとは長い付き合いで、何度も通ってくれるような本当にいい人たちなので、怒られたりなんかはしなかったんですけど。信頼を損ねてしまったんじゃないかと、それが本当につらかったです。
かつての店で培った信頼は、再出店後も引き継がれていました。
しかし、サービスの質においてその信頼を裏切ってしまうことへの罪悪感と葛藤。
長年のお客さんを持つことの重みと責任が、言葉の端々から伝わってきました。
店のシステムを支えていたのは、ホールのリーダーだった

今回、中橋さんが閉店を決められた一番の理由はどんなところにありましたか?

スタッフの問題ですね。
うちはテーブルごとにスタッフが入って、お客さんの隣で肉を焼くというのが私たちのスタイルなんです。だから、ホールをきちんとリードしてくれる人がいないと、このシステム自体が崩れてしまう。

かつてはそれを任せられるホールのリーダーがいて、本当にいい子だったんですが、その子が辞めないといけなくなってしまって。
それから、私たちでやらざるを得なくなったのですが、うまく回らなくなっていきました。

ホールのリーダーがいない状態だと、どういうことが起きるんでしょうか。

見ていないとやらない、ということですね。
バイトの子たちは、言われたことだけはやる。でも、テーブルの配置が崩れていても気にしないし、お客さんへの気配りもない。私が出てきてやっと『何なんだこのテーブルは』となる。

普通なら任せられるはずのことまで一人ひとり見ながら回すのが、もう体力的にも精神的にも限界でした。
厨房は、ホールのリーダーがいれば自然とついていくんです。おいしくても結局はサービス次第で印象がどうとでも変わってしまう。だから、ホールがしっかりしていればお店は回る。でもホールが崩れると、店ごと崩れていく。
この間は土曜日だけで8組帰してしまって……。

それは大変でしたね。

そうなんです。5~6人といった団体のお客さんが来てくれても、さばけなくて。8時とか9時まで待ってくれるお客さんがいても、それでも8組帰してしまった。
ただ、平日は毎日そんなにも忙しいわけじゃない。波があるんです。だから、ハッピーアワーを作ったりしてお客さんが分散するよう誘導すれば、もっとうまく回るはずなんですよ。

でも、つまるところはその時に、考えて接客してくれるリーダーがいない。 結局、来てくださったお客さんをがっかりさせて帰してしまうことになる。それは絶対違う、と思いました。
「ホールを支えるリーダーがいるかどうか」が、店の生死を分けると中橋さんは言います。
料理の質や立地の良さだけでは補えない、運営の核心部分がそこにありました。
満席でお客様を帰してしまうという事態は、経営上の損失であるだけでなく、積み上げてきた信頼を損なうものでもあります。
昔にも、同じ壁にぶつかった

以前、他の場所でも出店されていたと伺いましたが、そこでも似たようなことはあったのでしょうか?

はい。そこは八王子で1階・2階の大きい店だったんですが、そこでも同じ問題に直面して。店長を採用して入れたんですが、使えなかった。
使えないというか、合わなかったというか……「経験者だ」と言って来たのに、実際は経験がほとんどない人だったんです。

こういうことは本当に多い。嘘をつく人が多いので、面接では気をつけた方がいい。
使ってみないと分からないんですが、使ってみてから気づくのでは遅すぎる。それでそこも結局、閉めてしまいました。

スタッフ採用の難しさ、ということですね。

今はバイトの応募もほとんど外国人で、日本の子はなかなか来ないんです。
ベトナムの子たちには以前ずいぶんお世話になって、本当にしっかりした子が多かったんですが、今回の店では日本語がうまく話せない子が多くて、1年経っても意思疎通が難しいままでした。1人だけ、埼玉から通ってくれているしっかりした子がいますが、それ以外は正直な話……難しかったですね。
八王子の失敗も、この店舗での経験も、根本にあるのは「人の問題」でした。
スタッフ採用は、開業前に解決できるわけではありません。
だからこそ、経営者自身がどこまで判断に関われるかが、店の品質を左右するのです。
余談:プラットフォーム解約について

全然違う話なんですが、聞いてもらっていいですか。
うちはグルメサイトを2つ登録していたんです。1社はオープンからずっとお世話になっていて、閉店の連絡をしたら『来月までの支払いで、後の手続きはこちらでやります。今までありがとうございました』とすっきり終わったんです。

ところがもう片方は、閉店の連絡をしてから今になっても何の対応もない。未だにページが残ったままです。
ユーザーが多いからこういうことができるんだと思いますが、驚きましたよ。これからやめる方は、こういうサービス周りのことも気をつけた方がいいかもしれません。
撤退時の手続きでのリアルな体験談。
プラットフォームの登録解除や手続きも、閉店時の一つの通過点として事前に確認しておきたい点です。
これからお店を出す人、お店を畳もうか迷っている人へ

最後に、これからお店を出す方や、閉店を迷っている方に、何かメッセージをいただけますか?

出す人に言いたいのは、ホールをきちんとできる人を確保してからやれ、ということです。30代・40代の若くて体力のある人がいい。若い人は多少無理が利くから、なんとかなる。
私たちも夫婦でやってきて、2人でいる時は平気だったんです。 でも、それにかまけるのではなく、自分たちが見ていなくても回る仕組みを作ること。それが一番大切だと思います。

閉店を迷っている方へは、いかがでしょうか。

うちは夫婦でやるから、小さい4テーブルの店でやり直せばなんとかなると思っていた。でも結局は手に負えなかった。
自分たちがまだ若いと思っていたんですが、もう限界でした。見切りをつけるタイミングを誤ると、体力も気力もなくなっていく。やめることを迷っているなら、早めに決断した方が傷が浅い。それが今回学んだことです。


