「この場所でお店を続けていくには、リピーター様の存在が欠かせないと思うんです。」
そう話すのは、学生街である下高井戸で26年間にわたり丼を中心とした飲食店「どんぶり どどん」を営んできた内田裕之さん。
開業当初は学生を中心に支持を集め、現在ではテレビや雑誌、SNSなどをきっかけに幅広い世代が訪れるお店となっています。
新型コロナウイルスの流行による客層の変化、26年間の店舗経営で感じてきたリピーター様の大切さ、そしてこれから飲食店を出店する人に伝えたい「立地」と「資金」の考え方。
長く一つのお店を守ってきた内田さんだからこそ語れる、飲食店経営のリアルを伺いました。
〈取材者=梶田 彩乃、橋本 帆栞(店舗高値買取センター)〉
学生をターゲットに始めた、26年続く丼店

まずは、お店について簡単にご紹介いただけますか?

どどんを開業して26年になります。
学生街ということもあって、昔はほぼ学生さんをターゲットにしていました。
ただ、コロナ以降は客層が少し変わりましたね。
今は学生さんが6割、一般のお客さんが4割くらいです。

コロナ禍が大きな転換点になったのでしょうか?

そうですね。
それまでは、先輩が後輩を連れてきてくれてお店を知ってもらうという流れが自然にできていたんです。
でもコロナ禍で大学がオンラインになったり、部活動や学生同士の交流がなくなったりして、その繋がりが一度途切れてしまいました。
一方で、テレビや雑誌などに取り上げてもらう機会が増えて、社会人の方にも知っていただけるようになりました。
学生中心だった頃は、大学の夏休みや春休みに入ると売上が落ちる時期がありましたが、今は一般のお客さんも増えたことで、年間を通して比較的安定するようになりました。
学生同士の口コミで広がってきたお店にとって、コロナ禍は大きな転換点となりました。
一度途切れた学生同士の繋がり、その一方でテレビや雑誌への出演をきっかけに新しい客層との接点が生まれました。
26年間変わらない店でありながら、時代に合わせて客層は少しずつ変化しています。
脱サラから飲食店へ。「一人でもできる店」として選んだ丼専門店

飲食店を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

もともと飲食店はやりたいと思っていました。
この店を始める1年くらい前にも、居酒屋をやろうとして契約するところまでは進んだんです。
ただ、資金面を含めていろいろな事情があって、その時は一度辞めました。
そのままサラリーマンを続けていましたが、1年後にちょうど今の店舗が空いたんです。
それで「いいタイミングかな」と思って、今度は丼屋をやろうと。

最初から学生さんをターゲットに考えていたんですか?

そうですね。
自分自身も学生の頃、安くてたくさん食べられる店を探していましたし、ここは学生が多いエリアなので、「量をしっかり食べてもらえる店」にしようと思いました。
あとは、もともと一人で営業するつもりだったんです。
定食のようにお皿を何枚も使うより、ご飯の上に料理を乗せて一つの丼で提供する方が、一人でもやりやすい、という点もありました。
「学生に、お腹いっぱい食べてもらいたい」という思いと、一人でも営業しやすいスタイル。
その2つが重なって生まれたのが、現在の丼を中心としたお店でした。
自分自身の経験と土地の特徴を活かして形にしていったことが、26年続く店の原点です。
10種類から60〜70種類へ。お客さんから生まれたメニュー

今はかなりたくさんの種類の丼がありますよね。
おすすめはありますか?

肉だったら「ブッチャー丼」や「ラリアッ丼」が人気ですね。
プロレスや格闘技が好きなので、そこから名前を付けています。
海鮮系もありますし、今はメニューとしては60〜70種類くらいあります。

そんなにあるんですね!
開業当初から種類は多かったんですか?

最初は10種類くらいしかなかったですよ。
そこからお客さんのリクエストや、実際の食べ方を見たりしながら増えていきました。
例えば「キムチかつ丼」は、お客さんがかつ丼とキムチを別々に頼んで、かつ丼にキムチを乗せて食べているのを見たことがきっかけです。
そんな感じで生まれたメニューも結構あります。
開業当初は約10種類だったメニューも、現在では60〜70種類ほどに。
店側だけで考えるのではなく、お客さんの注文や食べ方を見ながら新しい商品を生み出してきました。
長く続ける中でも変化を止めず、お客様の反応を取り入れ続けていることが豊富なメニューに繋がっています。
26年間続けて感じた、一番大切なのは「リピーター様」

26年間お店を続けてこられて、飲食店経営で特に大切だと思うことはありますか?

やっぱりリピーター様ですよね。
新宿や渋谷のような繁華街だったら、一見さんが次々に来る商売もできると思うんです。
でも、ここはそういう場所ではありません。
わざわざ電車に乗ってここまで来てもらうことを考えると、一見さんだけをターゲットにするのは難しい。
だから、地元のお客さんや一度来てくれた人に、また来てもらうことが大事だと思っています。

そのために意識されてきたことはありますか?

うちは学生さんが中心だったので、やっぱり量ですね。
いっぱい食べてもらえるようにする。
始めた頃は(金額が)ワンコインか、それ以下くらいの商品もありました。
その後、牛丼屋さんなどのチェーン店が価格を下げていた時期があって、「価格だけでは勝負できないな」と思ったんです。
そこからはメニューを増やしたり、料理の質を上げたり、チェーン店にはないものを作っていくようになりました。
26年間の営業を支えてきたのは、新規客を追い続けることではなく「もう一度来てもらうこと」。
価格競争だけに走るのではなく、ボリュームやメニューの豊富さなど、自分たちだからこそ提供できる価値を磨いてきました。
地域で長く商売を続けるからこそ、リピーターの存在が何より重要だと内田さんは話します。

テレビに何度も出演されていますが、最初から積極的に宣伝されていたんですか?

全然していないです。
最初は、たまたま番組ディレクターの方がお店に来てくれたことがきっかけだったと思います。
そこから「大盛りのお店」としてテレビなどで取り上げてもらえるようになりました。
SNSも本格的に発信し始めたのはここ数年です。
昔はこんな下町のお店が広告やネットにお金をかけたところで、わざわざ来てもらえないだろうと思っていました。 でも今は自分たちでSNSから発信できますし、時代が変わったなと思います。

2階のお店なので、初めてだと少し入りづらさもありますよね。

そうなんですよ。
入口も分かりづらいですし、昔だったら「ちょっと怪しい店だな」と思われていたかもしれません(笑)。
でもテレビで紹介されたりSNSで見てもらえたりすると、「ここにこういう店があるんだ」と事前に分かった状態で来てもらえる。
そういう意味では、今は昔よりお店に入りやすくなっていると思います。
2階にあり、決して通りすがりだけで認知されやすい立地ではない店舗。
しかしテレビやSNSによって、店に入る前から雰囲気や料理を知ってもらえるようになりました。
「場所が分かりづらい」という弱点も、情報発信によって少しずつ変わってきています。
「2店舗目は出さない」一つの店に目を届かせる経営

今後、2店舗目などを考えることはありますか?

僕は2店舗目は出さないと思います。
自分の目が届かないところがあるのが、ちょっと不安なタイプなんですよ。
自分が失敗したことであれば自分で解決できますが、人に任せたところで何か起きた時に、自分がどう対応すればいいのか。
そこまで広げるよりも、自分の目が届く範囲でこの1店舗に集中したいと思っています。

店舗を増やすことだけが成功ではないということですね。

そうですね。
中途半端になるのも嫌なので。
この店でできることを続けていきたいです。
店舗展開を目指す経営者も多いなか、内田さんが選んだのは「一店舗に集中する」という経営スタイル。
規模を追うのではなく、自分自身の目が届く範囲で責任を持ち、店の質を守り続ける。
26年間続けてきたからこその、一つの経営の形がそこにはあります。
店舗高値買取センター・佐藤との繋がり

ちなみに、弊社の佐藤とはどのようなきっかけで知り合ったんでしょうか?

長男が不動産会社に就職したことがきっかけですね。
その会社と佐藤さんが仕事で繋がっていて、長男を通じて知り合いました。
佐藤さんは陸上部出身で、うちにも大学の陸上部の学生がよく来ていたので、そういう繋がりもあって一緒に食事に来てくれました。
佐藤さんはバイタリティーがありますよね。
食べることもそうですけど(笑)、仕事への熱量もありますし、フットワークも軽い。
顧客目線で力になってくれる人だと思っています。
だから、もし今後物件のことで何かあった時には、相談したいという信頼感がありますね。
ご家族を通じた縁から始まった、弊社代表・佐藤との繋がり。
飲食店と不動産、一見すると別々の世界ですが、人との縁をきっかけに今回のインタビューにも繋がりました。
これから出店するなら「場所」は妥協しない

これから飲食店を出店する方へアドバイスするとしたら、何を伝えたいですか?

まず場所は大事だと思います。
例えばうちは2階ですが、2階はやっぱり目立ちません。
ただその分、家賃は安いというメリットがあります。
隠れ家的なお店を作るなら2階でもいいと思いますが、最初から集客するのであれば、多少家賃が高くても1階の目立つ場所を選ぶという考え方も必要だと思います。
お店自体が広告になりますからね。
そこでお客さんをつかんでから、「次は2階でもいい」と考えるのはありだと思います。

お店に呼びたいお客様の層によっても、選ぶべき物件は変わりますよね。

そうですね。
女性なのか、子どもなのか、高齢の方なのかによっても全然違います。
例えば高齢のお客さんが多いのに、エレベーターがない2階だったら、通いづらいですよね。
30年間通ってくれているお客さんがいたら、そのお客さんも30歳年を取ります。
実際に、この近所でもそういう理由で1階へ移ったお店や、エレベーターのある場所へお客さんが移っていったという話があります。
なので自分が「誰をターゲットにして、どういうお店にしたいのか」そこまで考えて場所を決めることが大事だと思います。
「家賃が安いから」「条件が良いから」だけではなく、誰に来てもらうお店なのかまで考えて物件を選ぶ。
店舗そのものが広告になる飲食店において、立地はその後の経営を左右する重要な要素です。
26年間同じ地域を見てきた内田さんの言葉だからこそ、説得力があります。
「お金の余裕は心の余裕」自己資金を持って始める大切さ

立地以外に、出店前に準備しておいた方がいいことはありますか?

資金ですね。
これは僕の持論ですけど、店を開くときに全額を借りてマイナスからスタートするより、ある程度は自己資金を貯めてから始めた方がいいと思っています。
最初からうまく集客できればいいですが、最初の半年くらいは厳しいこともあると思うので。
借りたお金だけで始めると、最初から借金を返しながら営業していかないといけない。
だからある程度、余裕がある状態で営業することが大切だと思います。

資金面の余裕が、営業にも影響するということですね。

そうですね。
お金に余裕がなくなってくると、商品にも影響してくると思うんです。
今まで使っていた材料より安いものに変えようとか。
毎日来るお客さんは少しずつ変わると分からないかもしれませんが、1週間に1回来る人、1ヶ月に1回来る人なら、「味が変わったな」と分かると思います。
だから味や品質を保つためにも、余裕を持って始めることは大切ですね。
お金の余裕は、心の余裕にも繋がると思います。
資金が苦しくなれば、材料費や人件費を削らなければならない場面も生まれます。
そしてその変化は、料理や接客の質を通じてお客さんにも伝わってしまう。
「お金の余裕は心の余裕」開業そのものをゴールにするのではなく、開業後も安定して営業できる資金計画を持つことが重要だと内田さんは語ります。
物件だけでは分からない。「商店街との付き合い」まで確認する

長くこの地域で営業されているからこそ感じる、物件選びの注意点はありますか?

商店街にある物件なら、その商店街との付き合い方も知っておいた方がいいと思います。
うちはずっとここにいるので商店街の雰囲気や付き合い方も分かっていますが、新しくテナントを借りた人は分からないですよね。
商店会費があるのか、イベントには参加しないといけないのか、何か手伝わないといけないのか。
そういうことは、契約の時に全部説明してもらえるとは限りません。

確かに、募集図面だけでは分からない部分ですね。

そうなんです。
特にワンオペのお店だったら、商店街のイベントが土日にあったとしても、お店を休んで参加するのは難しいじゃないですか。
だから、お店側も地域との協調は必要だけど、商店街側も「なぜ参加しないんだ」で終わらせるのではなく、お互いに考えていく必要があると思います。
商売自体は自分一人でやっているように見えても、周囲との関係はすごく大事です。
店がうまくいっていても、周りとの関係が悪かったら、それが別のストレスになりますから。
店舗を探す時には、商店街との関係や地域のルールまで、不動産会社に聞いておいた方がいいと思います。
家賃や広さ、設備だけでは分からない「地域との関係性」。
商店街のルールや近隣店舗との付き合いは、実際に営業を始めてから初めて気付くことも少なくありません。
物件そのものだけを見るのではなく、その場所で長く営業していける環境なのかまで確認することが、店舗選びでは重要になります。
これからも、この一店舗で新しいものを

最後に、今後やっていきたいことや目標を教えてください。

もう少し新しい丼を作っていきたいですね。
年々新しいものをすぐ作るというのも簡単ではなくなっていますけど、今でもメニューは色々考えています。
子どもも大きくなったので、これからはもう少し自分自身も楽しみながら、やりたいことをやっていけたらと思っています。

現在でも60〜70種類あるのに、まだ増えるんですね。

そうですね(笑)。
メニュー表に全部載せきれないくらいあります。
載っていなくても、聞いてもらえれば作れるものもありますよ。
26年間、一つの場所で店を守り続けてきた内田さん。
変わらないことを大切にしながらも、お客さんの声を取り入れ、新しいメニューを生み出し続けてきました。
「リピーター様の心をつかむことが大事」
その言葉の裏には、学生を中心に始まった店が時代の変化を経験しながらも、地域のお客さんとともに歩んできた26年間があります。
立地、資金、料理の品質、そして地域との付き合い。
飲食店を長く続けるために必要なのは、目の前の売上だけではありません。
これから飲食店を始める方にとっても、長年一店舗を守り続けてきた内田さんの経験には、多くのヒントが詰まっていると思いました。
○店舗情報
どんぶり どどん
住所
〒156-0044
東京都世田谷区赤堤4-45-12 2F
営業時間
11:30~14:30頃まで
17:00~最大22:00
完売時、早めの閉店有
(休業日はカレンダーまたはInstagram等で確認してください)
TEL
03-3325-2600
Instagram
@dodon33252600
公式HP
下高井戸どどん│ボリューム満点のどんぶり定食屋
食べログ
どんぶり どどん – 下高井戸/かつ丼 | 食べログ








